売上が厳しいとき、考えはどうしても外へ向かう。
- 新しい顧客。
- 新しい商品。
- 新しい販路。
- 営業活動の強化。
どれも大切なことだと思う。
ただ、少し気になることがある。
売上を戻そうとするときほど、会社の内側にあるものを見落としやすい。
- 自社は、誰の、どのような困りごとを解決しているのか。
- 顧客は、何に価値を感じてくれているのか。
- その価値を、自社はなぜ提供できているのか。
この問いを飛ばしたまま受注量だけを増やそうとすると、
営業も、現場も、システムも、少しずつ無理を抱えていく。
売上が厳しいとき、考えは「何を売るか」に向かいやすい
- 近年、売上面が厳しい。
- 利益も出にくい。
- 人材にも余裕がない。
- システム面にも課題がある。
こうした状況では、受注量を増やさなければならない、という考えになる。
それは自然なことだと思う。
ただ、経営課題は単独では存在していない。
- 売上・利益の厳しさ。
- 人材面の制約。
- 業務やシステムの課題。
これらは、別々の問題のようでいて、実際にはかなりつながっている。
- 受注を増やそうとして、やみくもに営業先を広げる。
- 商品やサービスを増やす。
- 個別対応を重ねる。
すると、
- 現場は複雑になる。
- 人に頼る部分が増える。
- 業務が標準化されない。
- 結果として、システム化もしにくくなる。
売上を取りにいくほど、会社の中が苦しくなる。
そういうことは、案外めずらしくない。
ドミノ・ピザは、ピザだけを売っていたのだろうか
ここで思い出したいのが、米国ドミノ・ピザの30分配送の話である。
ドミノ・ピザは、1960年に米国ミシガン州で始まったピザチェーンだった。
創業初期の店舗は、店内飲食のスペースが限られており、最初から配達が重要な役割を持っていた。
さらに、メニューを絞ることで、注文が集中する時間帯にも対応しやすくしていた。
30分配送の考え方は、1970年代半ばから後半にかけて広がっていったとされている。
つまり、いまのようにスマートフォンで配達状況を確認できる時代ではない。
注文した食事が、いつ届くのか分かりにくい時代である。
その中で、「30分以内に届ける」という約束は、単なる速さの訴求ではなかったのだと思う。
- 早く届くこと。
- 温かい状態で届くこと。
- 外出しなくてよいこと。
- いつ頃届くかが分かること。
顧客が買っていたのはピザでありながら、
実際には、食事の手間を減らすことや、
待つ不安を減らすことにも価値を感じていたのだと思う。
ドミノ・ピザを「ピザを売る会社」と見ると、
強みは味や価格やメニューに見えてくる。
けれど、当時の米国で広がった30分配送の仕組みから見ると、
ドミノ・ピザは「ピザ販売業」としてだけでなく、
「温かい食事を、短時間で、確実に届ける事業」
として見ることができる。
見方を変えると、強みの見え方も変わる。
選ばれる理由は、見える価値と裏側の仕組みの間にある
「30分で届ける」という言葉だけなら、他社も言える。
けれど、それを本当に実現し続けるには、裏側の仕組みが必要になる。
- メニューを絞る。
- 調理の流れを標準化する。
- 配達できる範囲を設計する。
- ピーク時にも回るようにする。
- 多店舗でも同じ品質を再現できるようにする。
顧客に見えているのは、早く届くピザである。
しかし、その価値を支えているのは、
- 店舗設計
- メニュー設計
- 商圏設計
- 人材育成
- 標準化
といった力である。
ここに、強みの本質がある。
「早く届けます」という約束そのものが強みなのではない。
その約束を、安定して実現できる仕組みが強みなのだと思う。
これは、中小企業にもそのまま当てはまる。
顧客が評価しているのは、商品そのものだけではない。
- 納期を守ること。
- 相談に乗ってくれること。
- 急な変更にも対応してくれること。
- 品質が安定していること。
- 面倒な調整を引き受けてくれること。
そして、それを可能にしている日々の仕事の進め方こそ、自社の強みになっていることがある。
自社は、誰の困りごとを解決しているのか
自社の事業を見直すとき、まず考えたいことは難しい理論ではない。
- 誰の、どのような困りごとを解決しているのか。
- 顧客は、何に価値を感じてくれているのか。
- その価値を、自社はなぜ提供できているのか。
この三つでよいと思う。
たとえば、自社を「部品を作る会社」と見るのか。
それとも「顧客製品の品質や安全性を支える会社」と見るのか。
自社を「システムを入れる会社」と見るのか。
それとも「現場が判断しやすくなる業務の流れを整える会社」と見るのか。
言い方の違いだけに見えるかもしれない。
けれど、実際にはかなり大きな違いがある。
- 事業の定義が変わると、強化すべき業務が変わる。
- 営業で伝えることが変わる。
- 育てるべき人材が変わる。
- システム投資の優先順位も変わる。
何を売っている会社なのか。
それだけでは、少し足りない。
何で選ばれている会社なのか。
そこまで見えてくると、次の打ち手が考えやすくなる。
売上回復には、受注量の前に「軸」がいる
売上回復には、受注量の拡大が欠かせない。
- ただ、受注量を増やす前に、軸が必要になる。
- どの顧客に向き合うのか。
- どんな価値を届けるのか。
- その価値を、どの仕組みで再現するのか。
この軸が曖昧なまま営業を広げると、会社は忙しくなる。
けれど、強くなるとは限らない。
むしろ、個別対応が増え、現場の負荷が高まり、人材不足がさらに重くなることもある。
業務の流れが複雑になり、システム化も後回しになる。
売上・人材・システムの課題は、別々に見えて、実は同じ根から出ていることがある。
- 自社が何で選ばれる会社なのか。
- その価値を支える仕組みは何か。
- どこを磨けば、受注を増やしても無理なく回るのか。
ここを見直すことが、売上回復の土台になる。
「何で選ばれるか」が見えると、打ち手が変わる
自社が何で選ばれているかが見えると、打ち手は少し変わってくる。
- 営業で伝えるべきことが変わる。
- 狙うべき顧客が見えやすくなる。
- 現場で標準化すべき業務が見えてくる。
- システム化すべき範囲も見えてくる。
- 人材育成の方向も定まってくる。
売上が厳しいときほど、すぐに外へ答えを探したくなる。
けれど、答えは外にだけあるとは限らない。
これまで選ばれてきた理由の中に、次の受注を増やすための種があることも多い。
何を売るか。
その前に、何で選ばれてきたのか。
そこを静かに見直す時間は、経営にとって案外、大事なのだと思う。
