1.はじめに
中小企業を取り巻く環境は大きく変化しています。日本人の人口および労働力人口は少子高齢化にともない減少が予測され、企業数は中小企業を中心に減少が続いています。一方、1990年代に始まったインターネットのビジネス利用では、昨今のスマートフォンやFacebookなどのソーシャルメディアの瞬く間の浸透により、市場環境が劇的に変化しています。
このような中、売上を伸ばし利益を稼ぐ。そのための近道は今も昔も変わることなく、「顧客を増やす」ことです。市場を創造する機能のひとつである「マーケティング」にウェブを活用されている企業が取り組まれたポイントを紹介します。
2.中小企業を取り巻く環境
(ア) ネットコミュニケーションの拡大
インターネットは1990年代に登場した後、広告媒体やビジネス基盤として発達しています。株式会社MM総研「スマートフォン市場規模の推移・予測(2013年3月)」によると、携帯端末のうちスマートフォンの比率は、出荷台数で7割、契約台数で4割を超えました。2016年の契約台数比率は6割に達する見込みです。スマートフォンの普及で情報を閲覧することがどこでも可能になり、的確な情報提供によってリアルタイムに実店舗に誘導することも可能になってきています。
(イ) 事業継続の源泉は今も昔も集客
バブル崩壊、リーマンショックに端を発する市場環境の悪化により事業縮小や廃業が続く中、その理由として挙げられるのは、株式会社東京商工リサーチの調査によると「需要の頭打ち」「厳しさを増す競争」というものです。いずれも集客に起因するものです。
さて、顧客を惹きつけるための要因はどのようなことでしょうか。
バブル崩壊以降の厳しい市場環境を乗り越えて継続する企業においては、価格、品質、スピードの面で優れているのは当然で、現在の市場においては、このほかの競合差異化の要因が必要になってきています。
3.市場変化への対応
(ア) ナンバーワンでないと生き残れない
市場の縮小期に売上高を維持しようとするならば、競争の厳しさが増す中、シェアを拡大する必要に迫られます。その市場の中でナンバーワンあるいはオンリーワンの商品やサービスを提供することが求められます。
現在は、価格、品質、スピードへの対応に加えて、信頼、安心、親しみ、安らぎ、感動といった感受性に受け入れられる商品やサービスが求められています。それに応えるようなモノづくりやブランドづくりを進める必要があるのではないでしょうか。自社の強みを先鋭化することにより、既存のお客様や取引先との関係を強固に固定化したり、今までとは異なる業界の顧客を開拓することが求められています。
(イ) インターネット戦略の重要性の高まり
総務省情報通信政策研究所の調査によると、インターネットでの流通情報量は2001年から2009年の間に716倍に増加し、取得することのできる情報量は飛躍的に増加しました。その結果、「まずネットであたりをつける」という自ら情報を探し求める消費者や企業人の行動が極めて普通になりました。情報はマスメディアを通じて押し付けられるものでなく、自ら引き出すものへと変化しています。
それゆえ、商品やサービスを提供する側には、自ら情報を探し求める人々が満足する情報を提供することが求められています。
(ウ) 商売繁盛の基本は今も昔も変わらない
売上を伸ばし利益を稼ぐ。そのための近道は今も昔も変わることなく、「誰の、どのような期待に対して、何を、いつ、どうやって、届けるか」が明確でなければなりません。
まず、自社にとってどのような「市場のチャンス」があるのかを探します。市場のチャンスとは、
・ライバル企業が気付いていない企業や消費者のニーズ
・顧客や取引先との協業や販路の共有
・市場勢力図の変化
・政府の経済対策、規制緩和、規制強化
・FTAやTPPなどの貿易協定による変化
・今後の技術革新、グローバル化の動向
などのことです。
それと同時に、自社にどのような「強み」があるのかを整理します。強みとは、
・競合やその他と比較して明らかに勝っている点
Cf.観点:ヒト、モノ、カネ、技術、情報、効率、社内環境など
・顧客、仕入先、外注先、銀行などから評価されている点
・強い営業力、組織力、財務力、優れたノウハウや技術
・優れた経営者、幹部、社員などの人材面
・先駆的に実践している点
などのことです。
次に、市場のチャンスと自社の強みを組み合わせます。例えば、ライバル企業が気付いていない企業や消費者のニーズを発見し、そのニーズに自社のノウハウや技術が生かせないか検討します。
中小企業だからこそ可能な、価格競争に巻き込まれないニッチやコアなモノ、あるいは、マニアやオタク、富裕層、知識層の中でナンバーワンとなれる商品やサービスを考案し、そこに力を注いでいきます。
4.マーケティングにウェブサイトを活用するには
中小企業がマーケティングにウェブサイトを活用するにはどうしたらいいのでしょうか。
マーケティングの基本である「誰の、どのような期待に対して、何を、いつ、どうやって、届けるか」は同じです。しかし、ウェブサイトが担う役割(ゴール)は、提供する商品やサービスによって異なります。例えば、ビジネスホテルの宿泊予約サイトの役割(ゴール)は、予約申込や決済です。また、フルオーダーのウェディングドレスや紳士服の専門店のウェブサイトの役割(ゴール)は、来店予約や相談問合せになることでしょう。
ウェブサイトの利点は、アクセス分析をすることで訪問者の反響を速やかに把握できることです。これは、折り込みチラシや新聞広告などと大きく異なる点です。アクセス分析では、訪問者数、ウェブページ表示回数、流入経路、訪問者の滞在時間などのほか、訪問者ごとのウェブページの動線を収集すれば、ウェブサイトのどのページを見ると購入する確率が高まり、どのページで購入を断念するのかを分析できます。
しっかりと決めておく!
- ウェブサイトに訪問してもらいたいのは誰か
- 訪問者はどんな期待をもっている企業・ひとなのか
- 訪問者へ何をいつ、どうやって提供するのか
- ウェブサイトが担う役割(ゴール)は何か
- 訪問者にとって価値のある内容であるか
- 訪問者の悩みや課題を解消できる内容であるか
- アクセス分析をおこない、次の一手を打つ準備はあるか
など・・・・・
5.事例
(ア) 下請けから提案開発型に業態転換した金属加工製造業
大手電機企業の下請けとして金属加工部品の量産製造を行ってきた製造業B社は、高い生産技術力と品質管理体制を武器にしたマーケティングにより、航空・宇宙・防衛産業、電機・電子・通信産業、医療機器産業などの取引先拡大と売上拡大を実現しています。
自社の強みを探す際、取引先や見込み顧客からの問合せについて、「どのような問合せがあったか」を整理し、自社の強みと得意技を見える化します。
次に、ウェブサイトのターゲットを見込み顧客の購買部門や設計者に絞り、訪問者が「どうやって探すか」「悩み解決」につながる「検索キーワード」を考案します。
さらに、見込顧客の技術者が探しやすいメニュー構成、悩み解決の糸口となるわかりやすい内容、得意とする生産技術と品質の高さをイメージしやすく伝える」を意識したウェブサイトを自社で制作・運用しています。
(イ) 外車専門に特化した鈑金塗装業
自動車の鈑金塗装を地域密着型で営む鈑金塗装業C社は、自動車整備工場からの下請け業務が80%の零細企業でしたが、代表者自ら、ウェブサイトの企画、設計に関与して活路を見い出します。この結果、ネット利用の営業による新規顧客の獲得と、現場での品質重視のきめ細かいサービスの強化を両輪として、直需率を90%に上げます。
地域と外国車に特化したSEO対策(検索ポータルサイトでの上位表示のための対策)、リスティング広告をおこないます。
一方、付加価値のあるサービスとしての社内清掃、洗車・ワックス、スーツ着用での納車などを実践し、お預かりしたクルマを丁寧に扱い、リフレッシュして納車するサービスを展開しています。
確かな品質と気持ちの良いサービスにより、「リピート→ファン化」に結び付けています。
6.川口商工会議所会報誌に出稿いたしました
このような中、売上を伸ばし利益を稼ぐ。そのための近道は今も昔も変わることなく、「顧客を増やす」ことです。市場を創造する機能のひとつである「マーケティング」にウェブを活用されている企業が取り組まれたポイントを紹介します。