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システム導入を成功させるための提案依頼書(RFP)の記述レベルとは

 

システム導入を成功させるためには、提案依頼書(RFP: Request for Proposal)の作成がプロジェクトの成否を大きく左右します。

RFP(提案依頼書)は、システム導入においてプロジェクトの目的や要件を正確に伝え、ベンダーから適切な提案を引き出す重要な基盤です。

その中でも、記述レベルをどの程度具体的にするかによって、RFPの方向性が大きく変わります。

 

RFPの記述レベルを整理するための2つの視点を紹介します。

 

  1. 業務要件を示して提案を依頼するケース
  2. システム要件と構成を示して提案を依頼するケース

 

この2つの視点は、システム導入に関わる多くのプロジェクトで一般的に使用されており、実務においても有用性が高いとされています。

1.業務要件を示して提案を依頼するケース

このケースでは、業務プロセスや目的、課題を中心に提示し、システム導入に向けた解決方法や構成はベンダーに委ねます。

主に業務改善や課題解決の観点から提案が行われます。

 

【特徴】

  • 業務課題や目的を明確化する必要がある。
  • ベンダーの創造性や専門性を活用した幅広い提案が期待できる。
  • 提案内容の比較には慎重な精査が必要となる。

 

2.システム要件と構成を示して提案を依頼するケース

このケースでは、システム導入プロジェクトにおける具体的なシステム仕様や構成を明確に定義し、提案依頼書(RFP)で提示します。

主にシステム設計や技術的な要件が中心となり、ベンダーはその要件に基づいて提案を行います。

 

【特徴】

  • 詳細な仕様を準備する必要がある。
  • ベンダー間の比較がしやすい。
  • 技術的な選択肢が中心となる。

この2つの整理の視点を理解し、適切に活用することで、プロジェクトの目的や状況に合ったRFPを作成することが可能となります。

以下では、それぞれの視点の特徴、RFP構成の対比、そしてメリットとデメリットについて詳しく解説します。

提案依頼書(RFP)作成における業務要件とシステム要件の対比

以下の表は、2つのケースに基づくRFPの構成内容を対比したものです。

 

項目 業務要件を示すケース システム要件と構成を示すケース
1. はじめに RFPの目的、背景、解決したい業務課題 RFPの目的、背景、期待される成果
2. プロジェクト概要 プロジェクトスコープ、期間、業務改善の目的と背景 プロジェクトスコープ、期間、導入対象システムの概要
3. 要求事項

- 現状の業務課題

- 改善の目標

- 業務要件

- システム機能要件*
- 非機能要件*
- 技術要件
4. 提案依頼内容

- 業務改善方法の提案

- 業務プロセスの見直し案

- 要件に基づくシステム設計と構築方法
- 技術的な提案
5. 現状システム・環境の説明 現行業務プロセスの概要、関連システムの利用状況 現行システムの構成、データ連携、インフラ情報
6. 提案書の内容と形式

- 業務改善案

- 導入後の効果測定指標

- 体制案

- システム構成図
- 技術的な詳細仕様
- 体制案
7. スケジュール 提案~業務プロセス見直し~導入~運用開始のスケジュール案 提案~導入~運用開始のスケジュール案
8. 契約条件・見積依頼事項 契約形態、費用対効果やROIの概算 契約形態、コストの詳細な内訳要求
9. 評価基準 業務改善提案の妥当性、費用、期待効果 技術適合性、費用、開発体制
10. 提出期限・方法 提案書の提出期限と形式 提案書の提出期限と形式

システム機能要件*

  1. ユーザー管理 - ユーザーの登録、認証、権限設定などを管理する機能。
  2. データ入力・出力 - 必要なデータを入力し、結果を出力する機能。
  3. 検索機能 - データを効率的に検索・抽出する機能。
  4. レポート機能 - 必要な情報をレポート形式で表示・出力する機能。
  5. 通知・アラート - ユーザーに重要な情報を通知する機能。
  6. ワークフロー - 業務プロセスを管理・自動化する機能。
  7. データ連携 - 他システムやデータベースとの連携機能。
  8. ログ管理 - システムの操作履歴やエラーを記録する機能。
  9. 権限管理 - ユーザーごとのアクセス制御を設定する機能。
  10. バックアップ・リストア - データを保存し、復元する機能。

 

非機能要件*

  1. 性能 - 処理速度や応答時間など。
  2. 可用性 - システムの稼働率や復旧時間。
  3. 拡張性 - ユーザーやデータ増加への対応力。
  4. セキュリティ - データ保護やアクセス制限。
  5. 信頼性 - 障害発生の低さと復旧能力。
  6. 保守性 - システムの修正や更新のしやすさ。
  7. 互換性 - 他システムや環境との連携性。
  8. 移行性 - 別環境への移行の容易さ。

2つのケースに基づくメリットとデメリット

以下は、それぞれのケースのメリットとデメリットを対比したものです。

 

業務要件を示すケース

メリット デメリット
ベンダーの専門性や創造力を活用し、幅広い提案を受け取れる。 提案内容が多様化し、ベンダー間の比較が難しい。
業務課題やプロセス全体の改善に焦点を当てた効果的な解決策が期待できる。 課題を正確に把握し、適切に説明する必要がある。
最新技術や革新的な方法論を採用する余地がある。 業務改善の方法やシステム構成に関する提案が抽象的になりやすい。
提案が業務全体の効率化や生産性向上につながりやすい。 必要とする機能や技術的要件が十分に満たされない提案が含まれる可能性がある。

 

システム要件と構成を示すケース

メリット デメリット
要件が明確であるため、ベンダー間の比較が容易。 システムの詳細設計や仕様策定能力が求められる。
提案のブレが少なく、必要な技術的要素を確実に反映できる。 業務課題や改善の視点が不足し、要件が現場の実情にそぐわないリスクがある。
短期間での導入が可能(特に既存システムのアップデートや移行の場合)。 要件が固定されているため、革新的な提案や新しい技術の活用が制限される可能性がある。
プロジェクト全体の管理が比較的容易。 要件定義の精度が低い場合、後工程での変更コストが大きくなる。

まとめ

提案依頼書(RFP)は、システム導入を成功に導くための重要なステップであり、プロジェクト全体の成否を左右します。

「業務要件を示すケース」と「システム要件と構成を示すケース」の2つの視点は、それぞれ異なる特性と利点を持っています。

 

プロジェクトの目的や状況に応じて、これらの視点を適切に選択することが求められます。

例えば、業務プロセスの抜本的な見直しや革新的な提案を期待する場合は、業務要件を示すアプローチが適しています。

一方で、具体的な技術要件がすでに明確であり、短期間で確実に実現可能な提案を求める場合は、システム要件と構成を示すアプローチが効果的です。

 

また、これらの視点を単独で採用するだけでなく、組み合わせることも有効です。

例えば、プロジェクトの初期段階では業務課題に基づく提案を求めつつ、後半では具体的なシステム要件に落とし込むなど、状況に応じて柔軟に対応することで、より質の高い提案を得ることができます。

 

最終的には、プロジェクトの目標達成に向けて、RFPを通じてベンダーの強みを最大限に引き出し、プロジェクトに最適なソリューションを見つけることが重要です。

 

適切な視点を選択し、効果的なRFPを作成することで、システム導入の成功確率を大きく高めることができるでしょう。