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インボイス制度の開始により、経理業務で考慮すること

 

 2023年10月1日に、インボイス制度が導入されました。

 これを受けて、適格請求書発行事業者となった事業者は、新たな対応の方法を模索しなければなりません。

 

 弊社も「適格請求書発行事業者」として登録されました。日常の経理業務での対応例を以下に紹介いたします。

 この例は、原則課税(一括比例配分方式)を採用していた事業者が「適格請求書発行事業者」となったケースを基にしています。


請求書、領収書の発行について

  • 取引の相手方(課税事業者に限る)の求めに応じて、適格請求書(又は適格簡易請求書)を発行します。
  • 交付した適格請求書(又は適格簡易請求書)の写しを保存します。保存期間は、交付した日の属する課税期間の末日(決算日)の翌日から2カ月を経過した日から7年間です。

受領した請求書・領収証の保存について

  • 受領した請求書・領収証は、同様に7年間保存します。

仕入税額控除の条件と特例について

 インボイス制度では、免税事業者からの仕入に対しては仕入税額控除が認められません。ただし、免税事業者からの課税仕入についても、仕入税額相当額の一定割合を仕入税額控除として認める段階的な経過措置が設けられています。

 また、適格請求書(又は適格簡易請求書)の保存がなくても、一定の事項を記載した帳簿の保存のみで仕入税額控除の対象となる特例があります。

 そのため、100%控除の対象かどうかを区別して取り扱う必要があります。

  • 会計システムに入力する際は、該当する税区分を選択します。
  1. 課税売上対応:次のいずれかに該当するとき。
    • 公共交通機関を使用しない場合:
      • 費用が税込1万円未満
      • 費用が税込1万円以上で、適格請求書(又は適格簡易請求書)の要件を満たしている場合
    • 公共交通機関を使用する場合:
      • 費用が税込3万円未満
      • 費用が税込3万円以上で、適格請求書(又は適格簡易請求書)の要件を満たしている場合
  2. 課税売上対応(80%控除):課税売上対応に該当しないとき。
    ただし、2026/10/1~2029/9/30の期間は「課税売上対応(50%控除)」を選択します。

従業員が経費を立替払いした際の精算書について

 従業員が経費を立替払いした際の領収書等の宛名が“従業員名”の場合は、適格請求書(又は適格簡易請求書)の要件を満たしません。  

 従業員が経費を立替払いした際の領収書等の宛名が“従業員名”の場合、インボイスに記載する必要事項のうち「書類の交付を受ける当該事業者の氏名又は名称」を満たさないため、適格請求書(又は適格簡易請求書)に加え、“自社の企業名”が記載された「立替金精算書」の作成・保存をします。


 以下は、インボイス制度や仕入税額控除のあらましです。

 詳しくは国税庁のサイト:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice.htm などに掲載されています。

インボイス制度の概要

インボイス登録を行った適格請求書発行事業者は、主に次にあげる義務が課されます。

  1. インボイスの交付
    取引の相手方(課税事業者に限る)から適格請求書の交付を求められたときは、適格請求書を交付しなければなりません。

  2. 修正したインボイスの交付
    既に交付したインボイス(又は簡易インボイス、返還インボイス)に誤りがあった場合、誤りを訂正した適格請求書を交付する必要があります。

  3. 返還インボイスの交付
    売上に関する対価の返還等を行う場合、適格返還請求書を交付する必要があります。取引先に対して前月の売上を当月に値引きする場合、当月の売上に関する適格請求書も別途交付する必要があります。

  4. インボイスの写しの保存
    適格請求書の写しの保存期間は、交付した日の属する課税期間の末日の翌日から2カ月を経過した日から7年間となります。「写し」には、その適格請求書の記載事項が確認できる程度の記載がされているものを含みます。
    例:適格簡易請求書に関するレジのジャーナルや、複数の適格請求書の記載事項に関する一覧表や明細表などの保存も問題ありません。

仕入税額控除について

 仕入税額控除とは、消費税を算出する際に課税売上の消費税額から課税仕入れの消費税額を差し引くことをいいます。消費税は、商品・製品の販売やサービスなどの取引に対して課される税金で、消費者が負担し事業者を介して納付します。

本則課税の場合

 売上に係る消費税額から仕入に係る消費税額を差し引いて納付税額を計算する。

簡易課税の場合

 売上に係る消費税額から売上税額にみなし仕入率を掛けた金額を差し引いて納付税額を計算する。

2割特例の場合

 売上に係る消費税額から売上税額の8割を差し引いて納付税額を計算する。

 

 2割特例は、インボイス制度を機に免税事業者からインボイス発行事業者として課税事業者になられた事業者が対象です。

 したがって、基準期間における課税売上高が1千万円を超える事業者、資本金1千万円以上の新設法人、調整対象固定資産や高額特定資産を取得して仕入税額控除を行った事業者など、インボイス発行事業者の登録と関係なく事業者免税点制度の適用を受けないこととなる場合や、課税期間を1カ月又は3カ月に短縮する特例の適用を受ける場合などについては、2割特例の対象とはなりません。

仕入税額控除の適用要件

 仕入税額控除の適用を受けるためには、要件を満たした帳簿と請求書の保存が必要です。

 帳簿では、税率ごとに区分した区分経理を行うこと、そして、その事実を証明する区分記載請求書を保存することが定められており、それぞれの保存期間は次のようになっています。

  • 帳簿の保存:帳簿を閉鎖した日から7年間。
  • 請求書・領収証の保存:請求書・領収証を受領した日の属する課税期間の末日、その翌日から2カ月を経過した日から7年間。
    簡易課税、2割特例の場合、適格請求書、適格簡易請求書の保存は不要です。

●仕入税額控除の要件となる帳簿の記載事項は、次の4項目。

  1. 取引の相手方の氏名または名称
  2. 取引年月日
  3. 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
  4. 税率の異なるごとに区分した取引金額

●仕入税額控除の要件となる請求書の記載要件は、次の6項目。

 請求書には以下の項目の記載が必要となります。

  1. 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
  2. 取引年月日
  3. 取引内容(軽減税率対象の場合その旨)
  4. 取引の対価の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額及び適用税率
  5. 税率毎に計算した消費税額(1つの適格請求書(インボイス)につき税率毎に1回の端数処理)
  6. 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称

●仕入税額控除の要件となる領収証の記載要件は、次の5項目。

 領収証には以下の項目の記載が必要となります。

  1. 適格簡易請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
  2. 取引年月日
  3. 取引内容(軽減税率対象の場合その旨)
  4. 取引の対価の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額
  5. 税率毎に計算した消費税額(1つの適格簡易請求書(インボイス)につき税率毎に1回の端数処理)又は適用税率

帳簿のみ保存で仕入税額控除可能

 仕入税額控除の適用を受けるためには、要件を満たした帳簿と請求書の保存が必要ですが、適格請求書の保存がなくとも一定の事項を記載した帳簿の保存のみで仕入税額控除ができる特例があります。 

 

少額特例(一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置)

  • 少額(税込1万円未満)の課税仕入れについて、インボイスの保存がなくとも一定の事項を記載した帳簿の保存のみで仕入税額控除ができます。
  • 基準期間における課税売上高が1億円以下又は特定期間における課税売上高が5千万円以下の事業者が、適用対象者となります。
    基準期間:個人事業者の場合はその年の前々年、事業年度が1年である法人の場合はその事業年度の前々事業年度のことをいいます。
    特定期間:個人事業者については前年1月から6月までの期間をいい、法人については前事業年度の開始の日以後6月の期間をいいます。
  • 少額特例は、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの期間が適用対象期間となります。
    令和5年10月1日から令和11年9月30日までの間に行う課税仕入れが適用対象となりますので、たとえ課税期間の途中であっても令和11年10月1日以後に行う課税仕入れについては、少額特例の対象とはなりませんので、仕入税額控除を受けるためには、原則として、インボイスと一定の事項を記載した帳簿の保存が必要となります。

 税込1万円未満の判定単位

 少額特例は税込1万円未満の課税仕入れが適用対象となります。

 「税込1万円未満の課税仕入れ」に該当するか否かについては、1回の取引の課税仕入れに係る金額(税込)が1万円未満かどうかで判定するため、課税仕入れに係る一商品ごとの金額により判定するものではありません。

 したがって、5,000円の商品と7,000円の商品を同時に購入した場合(合計12,000円)には、少額特例の対象とはなりません。

公共交通機関特例(3万円未満の公共交通機関による旅費)

 3万円未満の公共交通機関(船舶、バス又は鉄道)による旅客の運送が対象です。航空機は対象外です。

 税込3万円未満の判定単位

 公共機関特例はこの3万円未満の公共交通機関による旅客の運送かどうかは、1回の取引の税込価額が3万円未満かどうかで判定します。したがって、1商品(切符1枚)ごとの金額や、月まとめ等の金額で判定することにはなりません。

自動販売機特例(3万円未満の自動販売機による販売)

 3万円未満の金融機関のATMによる手数料、自動販売機による飲食料品、コインロッカーやコインランドリー等によるサービスなどが対象です。

郵便切手を対価とする郵便サービス

 郵便切手類(郵便切手、郵便はがき、レターパック、スマートレターおよびミニレター)が対象です。

そのほかの特例

  • 入場券等が回収されるもの
  • 従業員等に支給する出張旅費等
  • 古物営業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの古物の購入
  • 質屋を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの質物の取得
  • 宅地建物取引業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの建物の購入
  • 適格請求書発行事業者でない者からの再生資源又は再生部品の購入

≪帳簿のみ保存の特例を適用する場合の帳簿記載事項等≫

① 課税仕入れの相手方の氏名又は名称

② 取引年月日

③ 取引内容(軽減税率対象の場合、その旨)

④ 対価の額

⑤ 課税仕入れの相手方の住所又は所在地(注)(●●銀行××出張所ATM、〇〇市 自販機、など)

⑥ 特例の対象となる旨
  ※公共交通機関特例、自動販売機特例、入場券等、ただし、少額特例の場合記載不要